タレスは一言で言うと古代ギリシアの数学者であり、最初の哲学者でもあります。タレスは『無知の知』で知られるソクラテスよりも150年以上前に生まれたとされ、自然哲学について考えました。

近代の哲学者のような詳細な活動記録は残っていないタレスですが、この記事では彼が残した哲学やエピソードをできるだけ多くご紹介します。

タレスとは

最古の自然哲学者で七賢人の1人

頭でも少し話したとおり、タレスは古代ギリシアで現在記録が残っている最古の自然哲学者で、七賢人の1人でした。

七賢人とは、紀元前620~550年ごろを生きた賢者たちのことを指しており、タレスのほかにソロン、キロン、ビアス、クレオブロス、ピッタコス、ミュソンなどの錚々たる顔ぶれが並んでいます。

万物の根源が水であることを説いた

タレスが最初の哲学者と呼ばれる所以は、彼が初めて「〇〇とは何か」という疑問を立てたところにあります。

彼が問うたのは「万物とは何か」、つまり、彼は神話的な話ではなく、論理的に世界は何からできているのかを考えました。その問いに対して、彼は「万物の根源は水である」と答えました。

水井戸に落ちたまぬけな人?

生前タレスは天体観測をするために外出していたところ、井戸に落ちてしまいました。

このときトラキアの女が、井戸の中に落ちているタレスを見て「あなたは自分の足元さえ見えないのに天上を見ることができるのか」とからかったのは有名な逸話ですよね。

タレスの幼少期

古代ギリシア・ミレトスに生まれる

タレスは、紀元前624頃に古代ギリシアのミレトスと呼ばれる都市に生まれました。家系はフェニキア人の名門・テリダイ一族で、政治活動や自然の研究に携わりました。

測量術と天文学に長けていた

タレスは博識で、さまざまなことに才能を持っていましたが、そのなかでもとりわけ測量術と天文学に長けていたと言われています。

私たちが中学生で習う『タレスの定理』も、元々数学者だった彼が証明して、学問として発展させたのです。

日食を予言した

歴史の父・ヘロドトスによると、タレスは自身の卓越した知識と頭脳で日食を予測したと言われています。

タレスがどのような計算方法で日食を予言したのかは明らかになっておらず、日食の発生日も詳しくは分かっていません。後世の研究で、おそらく紀元前585年5月28日に発生したのではないかと言われています。

タレスの活動エピソード

ピラミッドの高さを言い当てた

哲学者以前に数学者だったタレスは、ピラミッドの高さを測定していました。当時は現代のような測量技術や機械もなかったため、彼は地に落ちた自分の影と身長を比較して解を求めました。

『タレスの定理』

タレスがピラミッドの高さを測定するために用いたのは『三角形の比』で、現代では『タレスの定理』とも呼ばれています。

やり方は意外とシンプルで、最初に垂直に立てた棒とピラミッドの影の長さを測り、A:B=C:Dの計算式に、棒の実寸とその影の長さ、ピラミッドの影の長さを代入して求められます。

オリーブの豊作を言い当てた

タレスは得意な天文学から、次期のオリーブが豊作であることに気がつきました。そのため、己の出身地のミレトスとキオスにあるオリーブ用圧搾機械をすべて借りることにしました。

タレスの予想は見事的中し、オリーブは見事に実ったため、彼は多くの人に圧搾機の貸し出しを求められます。

結果として、彼は莫大な利益を手に入れました。過去にタレスは、「貧乏人が哲学なんぞ役に立たない」と非難されていましたが、このエピソードを以て自身が金儲けのために哲学を説くのではないことを証明しました。

井戸に落ちて笑われた

冒頭でも記したように、彼は星々を観察するために空を見上げて歩いていたところ、井戸の中に落ちてしまいました。それをトラキアの女中が偶然見つけ、タレスは空の事ばかりで足元が見えていないと揶揄されたと言い伝えられています。

実は自ら井戸の中に入った可能性も

この一見まぬけなタレスのエピソードですが、実際は足元をおろそかにしたせいで井戸に落ちたのではなく、星を定点観測するために自ら入ったという解釈もできるようです。

井戸の中から空を見上げれば、いつでも同じ視界で星の変化を観察できることにタレスは気がついていたのでしょうか。もしそうだとしたら、タレスは本当に天才ですよね。

哲学者らしい結婚観

生前タレスは適齢期を迎えてもまったく結婚する素振りを見せず、ついに母親が彼にむりやり妻を娶らせようと迫ったそうです。しかし当の本人は「まだその時ではない」と言い、婚約を拒絶します。

それから月日が経ち、タレスが落ち着いた頃合いを見て、母親はもう一度結婚について話しました。タレスはやはり、「もうその時ではない」と答え、巧みにあしらったそうです。

タレスは結婚に対してひねくれた気持ちをもっていたのか、それとも哲学や天文学以外のことが頭になかったのかは彼のみぞ知りますが、とても哲学者らしいエピソードですね。

タレスが属した『ミレトス学派』とは

自然の本質について考えた哲学者のこと

ミレトス学派とは、紀元前6世紀に生まれた、自然哲学を考える学派です。都市国家ミレトス出身の哲学者3人によって説かれたため、土地の名前をとってミレトス学派と呼ばれています。

ミレトス学派には、タレスのほかに、アナクシマンドロスとアナクシメネスが属しています。

ミレトス学派の自然哲学

ミレトス学派の3人は、今まで神の意志によってあらゆる自然現象が決定されていたという言説とは全く異なる、合理的で観察可能な説明を試みていました。

根底にある考え方は3人とも共通していましたが、「神以外の『何』が宇宙を形成し、すべての生命の源にあるのか」という問いに対する答えは三者三様です。

タレスは万物の根源は「水」だと定義しました。それに対してアナクシマンドロスは、万物の根源は1つに限定することはできないと反対します。

そして残るもう1人アナクシメネスは、蒸発や結露などでさまざまな性質に変化でき得る「空気」こそが、万物の根源だと定義しました。

『ミレトス学派』が生まれた背景

ミレトス学派が生まれた古代ギリシアは、ヨーロッパやオリエント地方などさまざまな都市に囲まれており、それに伴って多種多様の文化が伝わりました。

そのなかで、今まで神話で説明されてきた世界の成り立ちや自然について、疑問を感じる者が増えてきたことがきっかけです。

ミレトス学派の学問が目指す合理的な説明とは、神話以外の説明で誰もが納得でき、その自然現象を誰もが観察できる方法で世界の成り立ちを説明することを指します。

タレスの著作は残っていない

タレス哲学を伝える後世の人たち

実はタレスもソクラテス同様、自分の手で著作を残すことはありませんでした。彼の有名なエピソードは歴史家ヘロドトスや哲学者プラトンなどの後世の人物によって語られたものばかりです。

タレスの活躍を後世に語り継いだ人は多くいますが、そのなかでも興味深い2人について少し紹介します。

ディオゲネス・ラエルティオス

ラエルティオスは3世紀前半頃に活躍した哲学史家で、『ギリシア哲学者列伝』を遺しました。彼の著書は、古代ギリシアの哲学を紐解くための貴重な資料となっていて、哲学者に関する興味深いエピソードがたくさん記されています。

彼が伝える逸話のなかには、哲学者たちの、ひねくれた結婚への価値観がしっかりと記述されています。

アリストテレス

実は、『最初の哲学者』と呼ばれるタレスは、自らそう名乗ったわけではありません。アリストテレスが勝手にそう呼び始めたのです。

アリストテレスは、自身の著『形而上学』のなかで、万物の根源(アルケー)に対する知こそが哲学の根源的な部分にあると説明しました。そして、そのアルケーに対して初めて深く考察し、答えを出した人物がタレスだったと言うのです。

このほかに、上記のエピソード集で紹介したオリーブの話も、アリストテレスが『ポリチカ』のなかで紹介したためによく知られるようになりました。